笑ってしまった  角幡唯介

角幡唯介。 自称(? 公称?)探検家。
最近何冊か、彼の本を読んだ。
山に向かう姿勢など私と似ていて、自分ではうまく説明しきれないことをスパッと文章にしてくれているので読んでいて心地よい。

似てはいるが、何事にも賛同できるわけでもないので、反・角幡唯介 思考 的なことを3つぐらい書いてみようかと思っていた。

そうしたら今日(2020年6月11日・木)、朝日新聞のネット版に 「人間界離れた54日間、一変していた世界」 という彼の記事が出ていた。

彼は、数年前から心に温めていた 極夜の北極単独横断 に出ていた。
夏の北極は、1日中、陽が沈まない「白夜」。それに対して冬の北極は逆に1日中、陽が出ない「極夜」と言うらしい。そんな真っ暗で極寒の北極の横断にとうとう出発していたらしい。

コースは、グリーンランドから氷結した北極海を越えてカナダのエルズミア島だったそうだ。

(記事分をそのまま引用させてもらうと)

1月中旬に最北の村シオラパルクに入った。

12頭の犬と氷の無人境へ旅立ったのが3月19日だった。ところが村を出発して6日目、衛星電話で最初の連絡を日本の妻にいれたとき、予期せぬ知らせをうけた。

「いい、聞いて、カナダから入国許可を取り消された。だからカナダに行けない」

そんな理不尽な……。冒険史の旅がいきなりなくなり、私はがっくりと沈んだ。と同時に無性に腹が立った。

(引用、ここまで)

これを読んで、笑ってしまった。

何故か面白かった。

彼と私では、山への姿勢は似ているけれど、山のスケールがまるで違う。

そんなでっかい奴の失敗だから面白かったのかしら?

そんなに俺って姑息な人間?と嫌な思いをしながらも、可笑しくって笑っていた。

何故、カナダが入国許可を取り消したか?  もちろん、新型コロナで全世界が入国をストップしたからだ。

くだらんことで大きな冒険の旅が消えてしまった、わけだ。

 

ちょうど一年前、私は、太平洋から日本海へ、山から山をつないで歩き、やっと日本海に到達し、再び、山から山をつないで太平洋へ戻ってこようとしていた。往路は、多くの部分で、登山道の無い結構厳しい山をつないでいったので、帰路はお気楽な登山道を、と親不知海岸から北アルプスを目指した。ところが、最初の営業小屋にあたる 朝日小屋 に予約を入れると、私の年齢が70歳を超えているとわかったら、「来ないで欲しい」となってあえなく中断。年齢を理由に登山拒否とは、いまだに思い出すと朝日小屋の女将にはムカムカ腹が立つ。

小屋が拒否するなら途中ビバーク(不時野営)して白馬山に登ってやろうかとも思ったけれど、結局、北アは止めた。

お陰で未だに、長野県境を目指して新潟県の山を歩いている。

 

だから、角幡唯介の『そんな理不尽な……。冒険史の旅がいきなりなくなり、私はがっくりと沈んだ。と同時に無性に腹が立った。』のこの気持ち、よ~くわかる。

この冬の北極は寒くて氷結状態が良かったらしい。私は、北極のことなど全く知らないが、おそらくもう数年は、氷結チャンスはないだろう。だが、闘志だけは持ち続けて10年後、15年後のチャンスを待って 単独 極夜 北極海 をやってほしい。

 

それにしても、なぜ、彼の今回のブザマな失敗がおかしいのか?

他人の失敗が楽しいのではない。「無様な失敗」がおかしいのだ。

彼は、常々、探検や冒険はもちろん、登山さえも「反社会」性を帯びた行為だと言っていた。また、

彼は、より自然と強く接するために、GPSは持たないと言っていた。だから実際、彼は、過去の北極歩行にGPSは持たずに 六分儀 を使って天測をして、苦労しながら進んでいた。

そんな文明の利器を捨て去れっ、と言う彼が、最後の街を出発して6日目に『衛星電話』で妻と通話???

これさえなければ、新型コロナも入国許可取り消しも知らずに 旅 を続けられたものを・・・

多分、このギャップが面白かったのだと思う。

彼は、その昔、仲間とともに、那智の滝 を登って逮捕される チャンス を逃がしている。彼は、山への欲望を取るか順法を取るかと言うと法に従う方を選ぶきらいがある、山は反社会的な面があると言いながら。

私なら、極夜の北極にコロナの規制などどうでもいいと無視しただろうに。

 

 

 

 

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