【山 域】北ア・穂高・前穂高 上高地から前穂高北尾根日帰り登山
【日 付】2011年8月12日
【時 間】小梨平 0:40 明神 1:10 徳沢 1:55~2:05 松高ルンゼ出合 3:25~3:35
慶応尾根 5:00~5:15 北尾根最低鞍部 6:20~6:35 パノラマ径分岐 6:40
8峰手前の藪ピーク 7:35~7:45 8峰 7:55~8:05 7峰 8:40~8:50 6・7コル 9:10
6峰 9:40~9:50 5・6コル 10:00 5峰 10:35 4・5コル10:40~10:55 4峰 11:50
3・4コル 12:00~12:15 3峰 12:50~13:10 2峰 13:15 前穂高 本峰 13:25~14:00
紀美子平 14:30 雷鳥広場 14:40 パノラマ 15:10 岳沢小屋 16:25~16:40 小梨平 18:20
【メンバー】単独行
一昨日の明神岳の時は、岳沢の7号標識で息が上がっていたので今日は絶対に心臓がバコバコしないゆっくりペースで行く事を心して歩いた。
夜露で身体が冷えないようにカッパの上着は着ていく。
徳沢ではいつも休憩するベンチに人が寝ていた。その人もこんな深夜に歩く者をみて驚いた様子だったが、ベンチで寝るとは邪魔な奴だ。
奥又白谷の右岸の径もゆっくりペースを守ったので息を切らすことなくあっさり松高ルンゼの出合に達した。ゆっくりペースでも時間は従来とあまり変わらなかった。
満点の星座が綺麗だが、星が見えすぎてどれが北斗七星か分からない。こんな星座は初めてだ。
ここでいつものように500mlペットボトル2本に水を入れる。
この先、慶応尾根に向かう途中径を間違えルンゼを少し登ってしまったが、もとより暗がりなので注意して歩いていおり10mも間違った径を進まず元の径に戻って確認した。
標高2000m付近でやっと夜が明けてきた。松高ルンゼまであっさり進めたのでその先も楽に進めるかと期待してしまったのか北尾根最低鞍部までの登りがきつく感じた。
北尾根最低鞍部から見る槍穂高の稜線
北尾根最低鞍部から見る北穂,奥穂,涸沢カール
最低鞍部から見る槍ヶ岳には雲一つかかっていない快晴。今日の成功を確信する。
真夏の晴天の日に、レインウェアにロングのスパッツ、手には軍手とパノラマ径を行くには少々妙ないでたちだ。
パノラマ径が北尾根から離れて涸沢側に進む分岐で2人組パーティが休んで居られた。そのお二人を回り込むように北尾根の藪へと突っ込んだ。
40~50年程前はよく登られていたようで藪と言っても足下ははっきりと踏み跡が続いている。
踏み跡があるので元沢屋の私には他愛もないブッシュ、楽勝楽勝と順調に高度を稼いで行くと這松帯に出くわした。
さすがに昔の先立ちも手を焼いたと見えてここで踏み跡はぷっつり消えている。
這松帯の突破の方法は2通りある。一つは風の強く吹くところは這松が低くしか生きられないのでその背の低い這松帯を突破するか、逆に風下側の雪山ならば雪庇の下の這松が切れる所を突破するかだ。
ただ風下側は得てして急なガレで足の踏み入れようなどおよそ不可能なところが多い。
今回の風下側すなわち涸沢側は多少傾斜はきついが這松は切れてブッシュなのでその切れた這松に沿って登っていく。
しばらく這松とブッシュのコンタクトラインを我慢して登っていくと左上部に這松の薄そうなところが見えたのでそこを目指して這松に突っ込むこと5m程で稜上に出た。
8峰手前の藪ピークから見る前穂高
目の前の藪が8峰
それより先も左手は這松、右手はシャクナゲが濃いが踏み跡ははっきりしてきた。
濃いブッシュ帯を登り切ると8峰手前のブッシュのピークに出た。
北尾根最低鞍部から見ているとここが8峰かと思ってしまうが、8峰からだと7峰から先北尾根が前穂高までスッキリ見えるのでここはニセ8峰だとすぐ分かる。
また8峰は奥又白谷側から慶応尾根が合流して来るという特徴も持っている。
本当の8峰は、ブッシュの中をもう一頑張り必要だ。
8峰から見る7・6・5・4峰と前穂高本峰
8峰の奥又白側のくぼみから見る前穂高
冬に奥又白から北尾根を目指すとここに登り着く
やっと登り切った8峰には、期待した一面のお花畑はなくチョロチョロっと咲いている程度だが、樹木が無く槍穂の360度の展望が楽しめる。
素晴らしい景色が広がるが、北斜面の藪は濃く涸沢の小屋は覗けない。
今日スタートした小梨平の標高が1514mで、ここ8峰は2631mなので1100m登ってきた事になる。目指す前穂岳までまだ500m程登らなければならないが時間的にはまだ大丈夫だし、無理なら5・6のコルから涸沢へエスケープの途も残されているので精神的な余裕もある。
誰も居ないブッシュから解放された広いピークはただただ気持ちがいい。
でも一ついやな事が、それはここまでのブッシュ漕ぎで朝露で靴が濡れ、その中の靴下まで濡れてきた。ウーン、TNFのゴアの靴、朝露程度の水にも負けてしまうのか?
7峰へはまだ少々藪っぽい
冬はここでロープを出すパーティがいる
次の7峰へは、前半は草付きのザレを進み後半はまたもろブッシュに突入する事になる。
2~3m先が7峰 正面が6峰
7峰の真下が涸沢小屋
茶臼ノ頭の手前に奥又白池が写っていますが・・(分からないですよね)
その7峰も樹林が無く360度のパノラマが楽しめ、お弁当を広げてピクニック気分にもってこいの小さな頂上だ。
ここから北側の涸沢を覗くと今度は涸沢小屋が足下に見えるし、南側は奥又白池が何とか確認できる。
6・7のコル(陽の当たっているところ)へ涸沢側を下る
6・7のコル直前から見る6峰へのリッジ通しに狸岩を見上げる
この先6・7のコルの直前で足下は露岩になる。これを懸垂かクライムダウンでコルに降り立てると、どこかで読んだ記憶があるが、少々イメージが違うのでほんの少し戻って、冬と同様涸沢側を巻くように6・7のコルに出る。
この6・7のコルは狭いし、頭上に出るまでは三点確保で行かなければならない。背中側は、ブッシュがあるとは言え、涸沢まできつい傾斜なのでそれなりの高度感がある。この先、4峰の登りでロープが欲しい人はここでもロープが欲しいのではないかと思われる。
狸岩 ここまで来るとブッシュからは完全に解放される
この6・7のコルでブッシュからは解放され、傾斜の強い岩稜の雰囲気となりだす。
三点確保までは要らないが、浮き石を掴まないよう乗らないよう少し慎重になっていく。
意外と長く感じる6峰への登りも、目の前にあの北尾根のオブジェ「狸岩」が現れるとピークはもうすぐそこだ。
6峰から見る槍と北穂
6峰から屏風の頭を振り返る
涸沢から5・6のコルへの登路 さすがにこの時間では登ってくる人は居ない
6峰から見る北尾根後半と前穂高
6峰のピークで、涸沢から5・6のコルに上がるルンゼを見下ろすが、さすがのこの時間、登ってくる人は誰も居ない。
5・6のコルから先にも人影は見えない。
3峰の登りだろうか声は聞こえるが頂上までに追いつく事もあるまい。
何故か、今日は、人に会わず、この北尾根を独り占めしたい気分だ。
ここで北尾根の前半は終了した。時間はまだ十分あるし、多少疲れ気味だがバテ始めている様子は全くない。5・6のコルから涸沢へエスケープという事はなく当然頂上を目指して登山は続行する。
これより先、北尾根の後半はまさに岩稜ルート。
勿論岩稜ルートも好きだが、ここまで前半の静かな尾根のピーク越えの山も好きだ。
いつか涸沢をベースにこの前半の山々をゆっくり楽しんでみたい。
5・6のコルから先本峰まで
さて後半戦に入るかと、5・6のコルへ下り始めると意外とこれが怖い。本日初めてのザレの下り斜面で足が慣れていないからだろうか?
5・6のコルから先は、よく踏まれたコースになる。
4峰へのリッジ
4・5のコルで念のため、ハーネスとシュリンゲを取り出してザックにぶら下げた。
靴は、アプローチシューズのままだ。そう言えば、8峰の登りで濡れた靴下、今はすっかり乾燥している感じだ。
4峰の登り、リッジ通しは若干手強そう、確か、奥又白側に少し入った思う、と踏み跡頼りに進んでみたがこれが大間違い。
どこでも踏み跡っぽいが足場は全部浮き石。半分以上頑張って登ってみたがさすがにこれは違うと、右のリッジへトラバース気味に登ってやっと安定した足場に出た。
おー怖かった。
4峰へはリッジ通しが少々手強そうに見えても突っ込むべきだった。突っ込んで動きが取れなくなったら左へ奥又白側を少し迂回すると言うのが正解のようだ。
4峰から見る3峰のリッジ
4峰に立つと、3峰に取り付居ている2人パーティがいた。とうとう人に追いついてしまったらしい。一人静かな登山は終わった。
3・4のコルでフラットソールの靴に履き替え、ロープはすぐに出せるようにザックの一番上に入れ登り始める。
確かに傾斜はあるかも知れないが、先ほどの4峰の浮き石登りに比べるとはるかに簡単だ。
1ピッチ登ったところで先行のお二人はスイーツを食べながらの小休止。こんな岩稜でフワフワのスイーツとはあまりに美味しそうでツバが出る。
頭上のチムニーには入らず、左手のフェース上を越えていったら3峰のテッペン。ここには5人パーティがいた。
見れば、縦走並の大きなザックにビブラムの登山靴。強い人たちだ。聞けば、首都大学東京の山岳部だという。
この時初めて知ったが、首都大学東京とは元は都立大の事だそうだ。都立大の山岳部と言えば名門ではござらぬか。
今年は新入部員が5人も入ってきた、と嬉しそうに話していたのは印象的だった。
そして横では、1年生だろうか、スイーツならぬ山崎パンのあんパンを食べていたのにも驚いた。
私の現役時代の食事は貧相だった。菓子パン一個を食べれるなんて考えられないからだ。
5人中3人目の学生さんが登り始めたところで、その後に付き、2峰では先に懸垂で降りさせてもらって本峰にでた。
2峰を懸垂で降りる首都大学東京の山岳部の皆さん
昨年2回の失敗にもめげず、ついにやった、悲願の「日帰りの前穂高北尾根」。
そして心に秘めていた行動に移る。
過去40数年の登山歴の中で一番多くその頂上に立たせてもらったがこの前穂高。
もうこれ以上齢を重ねては登るのは無理かも知れない。だったら今、お礼を言いに行きたい。
その計画がこの「日帰りの前穂高北尾根登山」だった。
本当は、釜トンから「日帰り登山」をしたかったが、昨年の2回の失敗で、もう私にはそれは無理だと悟った。
それで少し形を変え、上高地からの日帰りに変えてこの北尾根を目指し、こうして今、私はここ前穂高の頂上に居る。
ありがとう、前穂高!!
腹の底からありったけの大声で万歳三唱をした。
前穂高の山頂にて
優しい人に撮ってもらった
でも顔にはモザイクが・・
そして嬉しい事に、記念すべき山頂の碑では優しい人が写真を撮って下さった。ありがとうございます。
【日帰りの北尾根】
上高地から山頂まで13時間だった。
これが最初の予定の釜トンからだったら14時間半と言う事になろう。
今回の調子で登れるのならやはり釜トンからの日帰りは十分可能な気がする。
もう少し若ければ・・・
もう少し以前にこの企画に気が付いていれば・・・
無念だ。
【前穂高北尾根・前半】
今回、北尾根の前半を中心に記録を書いた。
登りはブッシュが少々ウルサイかも知れないが、どのピークでもそれぞれ違った360度の展望を楽しめる魅力がある。
通常、無雪期の前穂高北尾根と言えば、5・6のコルから上部を指す。確かに、ロープを出して登る楽しさを求めるならその通りだろう。
だが、上部半分だけでは、充実感も半分しか無いだろう。